不動産版 第1回「不動産エリアマーケティングに使えるデータ分析」

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(1)不動産エリアマーケティングの必要性
 現在では人口の都心回帰が進んでいます。しかし、23区を区別に見ても人口の流入している区と流出している区があります。今後は、人が集まる地域・離れる地域というのがますます顕著になってくると思われます。とすると、見かけ上住宅に対する需要が増加傾向にあっても、「どこに人が集まるのか」「どんな人が集まってきているのか」「集まってくる人はどんな住宅を望んでいるのか」ということを把握していなければ、実は人口が減少しているにもかかわらず高層マンションを建ててしまうという失敗を犯してしまうかもしれません(極端な例ですが)。
また、「どこに人が集まるのか」「どんな人が集まってきているのか」を把握するにも、ただ何となくでは済まなくなっています。なぜなら、そのような吸引力のある地域での競争が激化しているからです。したがって、その地域でどれだけ詳細に消費者(=購入者)ニーズに沿った商品企画と値づけをできるかが競合との勝負の分かれ目になってきます。そのため、さまざまなデータを使用し、いろいろな切り口から地域の様相やそこに反映されている消費者ニーズを浮き彫りにしていくことが必要になるのです。
今回は、地域を分析するためのエリアマーケティングを不動産に応用し、吸引力のある地域の絞込みとその地域での供給状況、さらに需要ボリュームをみていきます。

 ■活用できるデータ類
不動産エリアマーケティングに活用できるデータには以下のようなものがあります。
目的 データ
人口や世帯の流入出をみる 人口動態、世帯動態、持ち家、借家、戸建て、共同住宅
競合の供給状況をみる 新築分譲事例、中古売買事例、戸建て売買事例
価格相場と収益力をみる 坪単価、価格、面積、賃料、利回り
地ぐらいをみる 実勢地価、平均年収、用途地域、学校区、駅乗降者数
需要構造(家族構成など)をみる 国勢調査、年収別世帯数、住宅・土地統計調査
経済情勢(商業力と消費性向)をみる 商業統計、家計調査、商業施設、生活利便施設
需給バランスをみる 国勢調査、年収別世帯数、新築分譲事例

 GISの利用:データベースの有効利用
前項で不動産エリアマーケティングに活用できるデータを列挙してみましたが、実際にこれだけのデータを手作業で収集し、集計するのは大変な労力が必要になります。それも、どこか一地点であればまだよいかもしれませんが、たとえば京浜東北線の各駅周辺データとなると、最早手作業では不可能だと思います。
そこで、GISというツールを使います。GISとは、地図上にデータを重ね合わせて表示・集計・分析するソフトです。地図をベースとしてデータを合成するツールともいえます。GISを使うと、たとえば秋葉原駅から徒歩10分圏域における10年間の人口流入出状況、競合状況、賃料相場、地価水準、平均年収、借家世帯数といったデータを簡単に集計することができます。
ここでも、1つ1つ手作業で集計するのは大変ですから、都内の京浜東北線の各駅における上記データの集計・分析を、GISで行ってみたいと思います。
 
(2)駅別データの集計・分析
まず、各駅からどのくらいの圏域を取るか決定します。ここではおよそ徒歩10分圏を取ることとします。分速80m換算で計算すると、800mとなりますが、これは直線距離なので、実質距離の目安として1.3を乗じます。したがって、各駅から半径1km圏域(40mは切り捨て)を作成し、その圏域内の各種データを集計して比較・分析します。
【GISを利用して京浜東北線各駅から半径1km圏域を作成】
エリアマーケティング データベース

 ■人口・世帯の流入出状況による考察
各駅の1km圏域における人口・世帯がどのように動いたか分析しながら、地域別の住宅に対するニーズの相違を考えてみます。まずは、先ほど作成した圏域内でH7〜H12までの人口および世帯増減を集計してみます。
【駅圏域別人口および世帯増減数の集計結果(H7〜H12)】
エリアマーケティング データベース
【人口および世帯増減数比較グラフ】
エリアマーケティング データベース
この結果を見ると、京浜東北線の各駅の動向は、
(1) 人口は減少しているが、世帯は増加している駅
(2) 人口も世帯も増加している駅
に分けて考えることができます。「人口は減少しているが世帯は増加する」というのは、一見矛盾しているように見えますが、流出したのが家族構成3人以上のファミリー世帯で、流入してきたのが1人もしくは2人の小世帯であることがわかります(赤羽、東十条、王子、大井町−(A))。
一方、「人口も世帯も増加している」のは、ファミリー世帯は流出したが小世帯の流入がそれ以上に大きかったか(田端、西日暮里、日暮里、鶯谷、田町−(B))、ファミリー世帯がそれほど流出せずに1人もしくは2人世帯が流入した(大森、蒲田−(C))という2つのパターンがあると思います。また、中心部(神田、東京、有楽町)で流動性が低いのは戸建て比率および持ち家比率が高いからです。いずれにせよ、この地域では物件は動きません。
【家族構成人数別世帯増減数比較グラフ】
エリアマーケティング データベース
 
(3)地域ごとに異なる住まいのニーズ
次に住宅の所有形態別(持ち家/借家)の動向を見てみましょう。
【所有形態別増減数比較グラフ】
エリアマーケティング データベース
(A)のファミリー世帯が流出し、小世帯が流入してきた駅では、王子駅を除いて持ち家世帯が増加し借家世帯が減少しています。
(B)のファミリー世帯は流出したものの小世帯の流入が大きい駅では、日暮里、鶯谷で持ち家志向が強まっています。
(C)のファミリー世帯がそれほど流出せずに小世帯が流入した駅では、大森で持ち家志向が強くなっています
 
最後に、居住形態別(戸建て/共同住宅)の動向を見てみます。住まいのニーズが、戸建てなのか、共同住宅なのか検討してみます。
【居住形態別増減数比較グラフ】
エリアマーケティング データベース
これを見ると、(A)の駅では所有形態動向と同様、王子駅を除いて戸建て世帯が増加しています。したがって、戸建て持ち家志向の地域と考えることができます。
(B)および(C)の駅では、共同住宅世帯に対するニーズが高くなっています。ただし、その中でも、住宅を購入して持ち家とする地域と借家として住んでいる地域とに分かれます。では、この住宅購入の要因と考えられるものはどこにあるのでしょうか。

次回以降、この疑問についてさらに深く検討を進めていきたいと思います。

→2.競合の状況をみる

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