不動産版 第5回「需要構造をみる」

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 ここまで、供給動向や価格相場、地ぐらいの分析を行ってきました。しかし、いくら地ぐらいが高く、現状で供給動向が活発でも、実は地域市場は飽和していて、いざ物件を販売しようとしたらなかなか売れないというリスクも考えられます。

そのため、将来にわたって住宅需要がどれだけ伸びるのか、またその地域でターゲットとなる世帯が何でどのような商品企画がマッチするのか、を適切に把握することが必要になります。住宅需要の成長性やターゲット世帯の絞込みを検討するために、国勢調査や住宅・土地統計調査、住民基本台帳といった統計調査を利用してみます。

このようなデータを活用することで、地域の需要特性がはっきりと見えてくるのです。
 
(1)人口増減から地域の成長性をみる
まず、京浜東北線の各駅圏域における人口増減から地域の成長性をみてみます。第1回のコラムのように、国勢調査から人口増減を計算することもできますが、現在公開されている国勢調査は2000年時点のものであることから、住民基本台帳を利用します。以下のグラフは、2001〜2005年までの駅圏域別の人口と世帯の増減数を算出したものです。これを見ると、以下のようなことがわかります。

・赤羽駅、東十条駅、王子駅と蒲田駅では、人口が減少している(→グラフ(1)−1)。

・人口および世帯増加数が多いのは、鶯谷駅、浜松町駅、品川駅、大井町駅である(→グラフ(1)−1)。

・鶯谷駅、神田駅、新橋駅、浜松町駅、品川駅、大井町駅、大森駅を除き、人口の増加数を世帯の増加数が上回っている(→グラフ(1)−1)。

・ただし、増減率でみると全駅において世帯増加率が人口増加率を上回っている。これは第1回のコラムでも書いているが、1人もしくは2人の小世帯の流入が多いことに起因するものと考えられる(→グラフ(1)−2)。

・特に、秋葉原駅、神田駅、東京駅、有楽町駅は、世帯増加率と人口増加率の差が大きい。それだけ流入してくる世帯が細かい単位であると思われる。一方、品川駅は比較的世帯増加率と人口増加率の差が小さく、ファミリー世帯の流入が多いのではないだろうか(→グラフ(1)−2)。

・これを男女別の人口増減数でみてみると、赤羽駅、王子駅、蒲田駅で女性人口の減少が大きい(→グラフ(1)−3)。

・鶯谷駅と大井町駅では男性人口の増加が女性人口の増加を上回っており、浜松町駅と品川駅では女性人口の増加が男性人口の増加を上回っている。特に浜松町駅は、増加率が最も高い(→グラフ(1)−3、グラフ(1)−4)。

・秋葉原駅、神田駅、東京駅、有楽町駅では男性人口の増加率が高く、一方、西日暮里駅、日暮里駅、浜松町駅、田町駅、品川駅では女性の人口増加率の方が高い(→グラフ(1)−4)。
 

【駅圏域ごとの人口・世帯増減数(2001〜2005年)】グラフ(1)−1


 
【駅圏域ごとの人口・世帯増減率(2001〜2005年)】グラフ(1)−2


 
【駅圏域ごとの男女別人口増減数(2001〜2005年)】グラフ(1)−3


 
【駅圏域ごとの男女別人口増減率(2001〜2005年)】グラフ(1)−4


 
男性人口の増加率が高かった秋葉原駅、神田駅、東京駅、有楽町駅(→図(1)−1)と女性人口の増加率が高かった西日暮里駅、日暮里駅(→図(1)−2)、および浜松町駅、田町駅、品川駅(→図(1)−3)周辺で、人口、世帯、男性人口、女性人口の各増減率の分布を町丁目単位で色分けして地図上で分析してみました。

増減率が高くなれば町丁目の色が赤く、低くなれば色が青くなっています。マップで見ると、駅周辺のどこに(たとえば駅の東側なのか西側なのかといったことなど)人が集まってきているのかよくわかります。

◎マップ分析には、マンション需要分析ツールもしくはマンション需給分析ツールが便利です。
 


【増減率 秋葉原駅〜有楽町駅】 図(1)−1
人口増減率 世帯増減率
男性人口増減率 女性人口増減率
 

【増減率 西日暮里駅〜日暮里駅】 図(1)−2
人口増減率 世帯増減率
男性人口増減率 女性人口増減率
 

【増減率 浜松町駅〜品川駅】 図(1)−3
人口増減率 世帯増減率
男性人口増減率 女性人口増減率
 
(2)人口と家族構成から地域の特性をみる
次に、人口と家族構成による特性をみてみます。ここからの分析に必要な情報は住民基本台帳にありませんので、2000年の国勢調査をベースにします。◎人口と家族構成が集計されている国勢調査はこちら

最初に、年齢25から44歳までを一次取得ターゲットと設定し、5歳レンジおよび男女別に人口ボリュームを集計しました。これを見ると、以下のようなことがわかります(ただし、調査時点が2000年であることに注意)。

※構成比を表すグラフでは、最も構成比率が低い駅に合わせて補助線を引いている(例.年齢別人口構成グラフの25〜29歳人口では、田町駅の構成比率で補助線を引いている)。

・年齢25〜44歳の人口が多いのは、蒲田駅、西日暮里駅、一方少ないのは都心部の東京駅、有楽町駅、新橋駅である(→グラフ(2)−1)。
・25〜44歳までの人口を5歳レンジで集計し、その構成を見てみると、各駅圏域内で目立った差異はない。ただし、25〜44歳人口の少ない都心部の東京駅、有楽町駅、新橋駅では25〜29歳人口の構成比が高く、35〜39歳人口の構成比が少なくなっていることが、若干みてとれる(→グラフ(2)−2)。
・25〜44歳までの人口についてその男女比を見てみると、やはり目立った差異はない。ただし、ほとんどの駅圏域で男性比率が50%を超えているのに対し、新橋駅と田町駅については女性比率が50%を超えている(→グラフ(2)−3)。

 
【駅圏域ごとの年齢25〜44歳人口(2000年)】グラフ(2)−1


 
【駅圏域ごとの年齢25〜44歳人口構成(2000年)】グラフ(2)−2

 
【駅圏域ごとの年齢25〜44歳人口と男女比(2000年)】グラフ(2)−3


 

続いて、家族構成を分析します。家族人員別に1人世帯、2人世帯、3人以上の世帯として分類し、それぞれの人員数で構成される主な類型パターンを次のように設定して、ボリュームを集計しています。
 1人世帯→一次取得ターゲットのシングル世帯
 2人世帯→夫婦のみの世帯(≒DINKS)
 3人以上の世帯→夫婦と子供で構成される世帯。および、そのうち6歳未満の子供がいる世帯(=子育てファミリー)
これを見ると、以下のようなことがわかります。

・世帯数が多いのは、蒲田駅、西日暮里駅、東十条駅、一方少ないのは都心部の東京駅、有楽町駅、新橋駅である(→グラフ(2)−4)。
・1人世帯、2人世帯、3人以上の世帯について、その構成を見てみると、1人世帯の構成比が高いのは新橋駅、浜松町駅、2人世帯の構成比が高いのは、東京駅、有楽町駅、3人以上世帯の構成比が高いのは、神田駅、秋葉原駅である(→グラフ(2)−5)。
・1人世帯に対する、一次取得ターゲット(年齢25〜44歳)のシングル世帯は、浜松町駅、田町駅で構成比が高くなっている。新橋駅は相対的に見て高くないため、ターゲットとなるのは異なる年齢レンジであると思われる(→グラフ(2)−6)。
・2人世帯に対する、夫婦のみの世帯数(ただし、共働きであるかどうかは不明)の構成比は、各駅圏域内で目立った差異はない。ただし、1人世帯構成比が高い新橋駅、浜松町駅は、夫婦のみの世帯構成は若干低い(→グラフ(2)−7)。
・3人世帯に対する、夫婦と子供の典型的なファミリー世帯の構成比は、田町駅、大森駅で高く、神田駅、東京駅で低い(→グラフ(2)−8)。
・さらに、夫婦と子供のファミリー世帯に対して、6歳未満の子供を持つ子育てファミリー世帯の割合をみてみると、やはり田町駅が高い。一方、ファミリー世帯の構成比が低かった神田駅、東京駅では、6歳未満の子供を持つか否かで分けてみると、神田駅は割合が低く、逆に東京駅では割合が高くなっている(→グラフ(2)−9)。


【駅圏域ごとの世帯人員別世帯数(2000年)】グラフ(2)−4


 
【駅圏域ごとの世帯人員別世帯構成(2000年)】グラフ(2)−5

 
【駅圏域ごとの1人世帯に対する年齢25〜44歳のシングル世帯】グラフ(2)−6


 
【駅圏域ごとの2人世帯に対する夫婦のみの世帯】グラフ(2)−7


 
【駅圏域ごとの3人以上の世帯に対する夫婦と子供の世帯】グラフ(2)−8


 
【駅圏域ごとの夫婦子供世帯に対する6歳未満の子供がいる世帯】グラフ(2)−9


 
(3)住宅の建て方と持ち方から地域の特性をみる
住宅の建て方と持ち方から特性を把握してみます(ただし、第4回の「地ぐらいをみる」でも分析しているため、重複する部分もあります)。その地域にどのような住宅がマッチするのか、周辺地域とのバランスも考慮して住宅の提供形態を検討していきます。

◎住宅世帯が持ち方・建て方別に集計されている国勢調査はこちら


まず、一戸建て・共同住宅という建て方別に世帯数を集計してみました。これを見ると、以下のようなことがわかります(ただし、共同住宅はマンションを仮定するため、3階建て以上の住宅を抽出しています)。

※構成比を表すグラフでは最も構成比率が低い駅に合わせて補助線を引いている(例.住宅建て方別世帯構成グラフの一戸建て世帯数は田町駅の構成比率で補助線を引いている)。

・住宅の建て方別世帯構成を見てみると、一戸建て世帯の構成比が高いのは、秋葉原駅、神田駅、一方共同住宅世帯の構成比が高いのは、田町駅、品川駅である(→グラフ(3)−2)。

・一戸建て世帯について住宅の持ち方別に見てみると、そのほとんどは持ち家である。特に、東京駅では一戸建て世帯の持ち家率が高く、一方品川駅では一戸建て世帯の持ち家率が低い→(グラフ(3)−3)。

・共同住宅世帯について住宅の持ち方別に見てみると、その多くは借家である。特に、東京駅や有楽町駅など都心部で共同住宅に住んでいる世帯では70%以上が借家である。一方、神田駅や秋葉原駅では、共同住宅でも持ち家率が高い(グラフ(3)−4)。

 
【駅圏域ごとの住宅建て方別世帯数】グラフ(3)−1



 
【駅圏域ごとの住宅建て方別世帯構成】グラフ(3)−2


 
【駅圏域ごとの一戸建て世帯数と一戸建て持ち借比】グラフ(3)−3



 
【駅圏域ごとの共同住宅世帯数と共同住宅持ち借比】グラフ(3)−4



 
 
(4)年収別世帯数から地域の特性をみる
第4回で所得水準から地ぐらいの分析を行いましたが、今回は年収レンジごとの世帯数ボリュームからターゲット世帯を見極めていきます。
年収別世帯数は300万円未満、300〜500万円、500〜700万円、700〜1000万円、1000〜1500万円、1500万円以上という6レンジで集計されておりますが、住宅購買力を考慮して、年収500万円以上の世帯を対象としていきます。
 
◎住宅の持ち方別に年収別世帯数を推計したデータはこちら
 
これに従い、年収500〜700万円、700〜1000万円、1000万円以上の世帯を集計してみると以下のようなことがわかります。
 
※構成比を表すグラフでは、最も構成比率が低い駅に合わせて補助線を引いている(例.年収別世帯構成グラフの年収500万円未満世帯数では、新橋駅の構成比率で補助線を引いている)。
 
・年収500万円以上の世帯が多いのは、蒲田駅、大森駅、日暮里駅、上中里駅、東十条駅である(グラフ(4)−1)。
 
・ただし、年収別世帯構成をみると、神田駅、東京駅、有楽町駅、新橋駅において年収500万円以上世帯割合が50%を超えている。特に、神田駅は年収1000万円以上の高額所得世帯割合が高い(グラフ(4)−2)。
 
・年収500〜700万円の世帯について住宅の持ち方別に見てみると、新橋駅、浜松町駅、田町駅、品川駅にて借家率が高い(グラフ(4)−3)。
 
・年収700〜1000万円の世帯について住宅の持ち方別に見てみると、やはり全般的に持ち家率が高くなる。しかし、東京駅、有楽町駅、新橋駅、浜松町駅、田町駅、品川駅では、依然として借家率が50%を超えている(グラフ(4)−4)。
 
・年収1000万円以上の高額所得世帯について住宅の持ち方別に見てみると、さすがに借家率が50%を超える駅圏域はない。ただし、新橋駅、浜松町駅、田町駅においては40%強が借家世帯であり、借家世帯の所得が高水準の地域と考えられる(グラフ(4)−5)。
 
【駅圏域ごとの年収別世帯数】グラフ(4)−1


 
【駅圏域ごとの年収別世帯構成】グラフ(4)−2

 
【駅圏域ごとの年収500〜700万円世帯数と持ち借比】グラフ(4)−3


 
【駅圏域ごとの年収700〜1000万円世帯数と持ち借比】グラフ(4)−4


 
【駅圏域ごとの年収1000万円以上世帯数と持ち借比】グラフ(4)−5


→6.商業力と消費性向をみる

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